溺水者の救命率について
溺水者とは”溺れて窒息している状態にある人”です。総合診療科の医師(広島県)より、溺水者の救命率について寄稿いただきました。
お餅などの食べ物を喉に詰まらせた状態と同じように、窒息状態では肺に酸素を取り込むことができなくなり、脳やその他重要な臓器への酸素供給が減ることで、意識レベルの低下や心肺停止になった状態。また水が気管・肺に流れ込み誤嚥してしまうと、肺胞での換気量の低下や誤嚥性肺炎などを引き起こしてしまいます。
早期の救命処置で救命率は約2倍に
救助者・周囲の人による応急手当が救命率に大きく影響します。水難事故に限らず、もしもの事故に遭遇した場合に備え、救命処置を学んでおくことも必要かもしれません。また事故に遭遇した場合は、周囲の人で医療従事者や救命経験者を探すことも方法のひとつです。
(1)意識混濁や呼吸停止の場合
陸に引きあげたあとは、横に寝かせ、呼びかけや肩叩きへの反応確認、胸の動き具合をみて呼吸をしているかどうか確認します。救急隊が到着するまで、速やかに胸骨圧迫やAEDを用いて心肺蘇生を開始しましょう。
(2)意識があり自発呼吸ができる場合
衣類が濡れていれば、服を脱がせ、毛布や乾いた上着などを掛けて体を冷やさないことも重要です。意識状態に問題がなく体が冷えている場合は、温かい飲み物を飲ませ、体の中から温めてあげましょう。
(3)時間経過と救命率
- 心肺停止から5分を経過すると救命率は20%以下。
- 救急車が到着するまでに、救命処置をした場合は救命率が約2倍に向上。
事故直後の心肺停止(※)から救命処置なしで12分程度経過すると、救命率は5%以下まで低下します。しかし救命処置を継続すれば命を救える可能性はまだ10%程度あります。あきらめずに、できる限りの処置を継続することが必要です。
※救出時に心臓や呼吸が停止した状態です。報道等で心肺停止とされる場合は、医師による死亡確認前で使われることもあります。
病院での処置(初期対応)
- 病院到着時に心拍数の低下・停止がみられる場合は、胸骨圧迫や気管挿管、昇圧剤の投与などにより、心肺蘇生を継続して行います。
- 心肺停止している場合は、胸骨圧迫などの心肺蘇生を行いながら、並行して復温処置を行っていきます。
- 可能な限り短時間で気道内の液体や異物は吸引します。
- 低体温症がみられる場合は、温めた点滴の投与や電気毛布などを用いて復温します。
- 重症低体温症の場合、心室細動などの致死性不整脈が起こりやすく、できるだけ刺激を与えないように安静を保つようにします。
予後について
軽症の場合でも、遅れて肺炎や呼吸不全を発症することがあるため、経過観察目的に入院となることが多いでしょう。また退院したあとも、発熱や呼吸苦などの症状があれば、早めに病院に電話連絡を取り、診察を受けるようにして下さい。
深刻な後遺症のおそれも
溺水後で助かった場合でも、脳の酸素不足が長時間に及ぶことで低酸素脳症となれば、いわゆる”脳死”や”遷延(せんえん)性意識障害=植物状態”となってしまうことがあります。このような状態は呼吸運動を司る脳幹が障害されるため自発呼吸ができないため、人工呼吸器が常に必要となります。
また、肺の中で細菌が増殖することで肺炎を発症したり、肺が水浸しの状態である肺水腫(二次溺水)となることで、長期間の入院や場合によって一生涯にわたって、病院での療養が必要となるケースもあります。
—▲ここまでは医師による一般的な知見です。—
毎年、夏になると水難事故の報道が目立ちます。ニュースや警察庁の水難事故統計(年間と夏季)では見えない状況もあると思います。例えば水難者の負傷の程度、その後の経過までは分かりません。重体になった方の中には、命を取り留めても深刻な障害を背負うケースもあると思います。
溺れることはないだろう、たぶん大丈夫だろう、泳ぎは得意だし溺れても誰かが助けてくれるだろう、といった考えをせずに「この場所は危険かも知れない、溺れるかも知れない」を、まず想像すること、危険予知が出来るように情報や知識を持つことが大切だと思います。
くれぐれもご安全に!